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朝霧先生(ry  50話 登校地獄でgdgd。その十。

―――まさかこんな形で介入して来るとは思わなかった。

木から木へ飛び移り軽い身のこなしで地に降り、抱えていたぼーやを下ろしている長瀬楓を、腕を組みながら見下ろす。
確かに、長瀬楓ならばあの状況からぼーやを助け出す事も可能だろう。奴にはそれだけの実力がある。普段は飄々としている為掴み所の無い奴ではあるが、ふとした時に見せる人間離れした動きが何よりの証拠だ。あれで、未だに忍者ではないと言い張っているらしいのだから面白い。

「それで? 何故貴様がここにいる?」
「さっき言った通りでござるよ」

『最高レベルの強者と戦える』か。ふん、大方どこぞの馬鹿チビが煽ったのだろう。それだけが理由では無いのかもしれんが、迷惑な話だ。
ぼーやを見てみれば、僅かながら迷っている様子を見せている。まあ、今日は一人で私と戦うのだと覚悟を決めて来た様な態度をしていたからな。

「拙者もこの決闘に参加してもいいでござろうか?」
「そのつもりで来た癖に何を言うかと思えば。別に構わん、だがそれ相応の覚悟はしてもらうぞ?」
「元より承知の上でござる。それに先程の凄まじい術を見れば尚更」

どいつもこいつも、馬鹿霧の言う通り妙に肝が据わっている女ばかりで困る。
しかし、長瀬楓が加わった事で手加減がし辛くなったのがアレだな。私の見立てでは、桜咲刹那と同程度の実力を持っていると判断する。それならば多少やり過ぎても、死ぬ事はあるまい。

「長瀬さん……」
「ネギ坊主、これは拙者の意思でござるよ。拙者が望んでここに参上し、望んでネギ坊主に助力するだけ。今は深く考える必要などござらん。それに、誰かの手助けを受ける事は別に悪い事では無いでござるからな」
「……わかりました」

ぼーやはまだ納得し切れていない様だが、一応の話は付いた様だな。それでは第二ラウンドと行こう。
奴等の陣形は、長瀬楓が前衛でぼーやが後衛。長瀬楓が私の足止めをし、ぼーやのとっておき(あるのかどうかはわからんが)で終わらせる、というのがベターか。
だが、それが通じるのは普通の魔法使いのみだよ。真祖の吸血鬼である私が生半可な攻撃でやられる訳がない。まあ、タイムリミットまで奴等が持ち堪える事が出来れば、ほぼ無条件で奴等の勝ちになってしまうがな、それならばその前に潰せば良いだけの話だ。
―――ああ、そうだ。一つ訂正しておく事があったな。

「貴様は先程、『最高レベル』と言ったがそれは違う」

全身に流し込んでいる魔力量を更に増やし、ゆっくりと眼を閉じ、

「―――私は『最強レベル』だよ」

身体に溜め込んでいた魔力を放出させるのと同時に、奴等にプレッシャーを浴びせる。魔力放出の衝撃だけで大地が震え、発生した突風が木々を激しく揺らす。
そして、閉じた眼をゆっくりと開き、奴等を射抜く様に睨みつけ更に威圧。並の術者ならばこれだけで気絶してしまう、根性無しばかりで嫌になるな。

「まさか、これほどとは……拙者、少々ワクワクして来たでござる」

これを見てもまだそんな軽口が聞けるとは、こいつはこいつで面白いなぁ。
普段は閉じられているとも誤解しかねない奴の細目が見開かれ、右手を胸の前に人差し指と中指を立て―――

「最強レベル、この身で試させてもらうでござるよ―――甲賀中忍、長瀬楓、参る!」

―――今日、この瞬間を持ってようやく自分が忍者だと暴露した。











『実験体No210』。確かに九条さんはそう言った。
初対面の筈なのに朝霧先生の事を知っている様な素振りは見せていましたが、まさか彼女がクウネルさん達の言う『研究』に関わりのある方だったなんて思いもしなかった。

お嬢様もアキラさんも茶々丸さんも、わからないと言った様な表情を浮かべている。朝霧先生から話す事は無かったので当たり前と言えば当たり前なのですが。
そもそも、朝霧先生はそういった事に関しては知られようが知られまいが、どうでもいい様な態度を取っているのでいつか知る機会があるんでしょう、と思っていた所に思わぬ事態。

「実験体No210、ねぇ。何か凄く懐かしい呼ばれ方だわ。知らん内に名前で呼ばれる事も番号で呼ばれる事もなくなって、ずーっと失敗作とか言われてたからなー。つか、210って俺にぴったりな数字じゃね? ニート的な意味で」
「その辺りの事も、ウチの轟が迷惑を掛けた分と……私が受けた恩の分だけ持てる情報は教えてやるつもりだ。というかニートだったのか……まあいいけど」

そう言って、乗って来た柱に右手を向け何かの術を発動させる。
術が完全に発動し、柱を中心に青い光が発生して広がり朝霧先生と九条さんを囲う様に何かの結界が完成した。

「余計な者には教える気はないからな、悪いが結界を張らせてもらった」
「そういうもんかー。別にいいよー」

少し困惑している所に『そっちはどう? 見える?』と朝霧先生から念話が届く。結界を張られても尚タマタマタマちゃんが、映像を映し出している所を見ると大丈夫なんでしょう。
結界、と言う割には念話が届いているので念話の遮断はされていない様だ。周りから自分達を視認出来ない様にし、音を遮断する類の結界と言う事でしょうか? ……タマタマタマちゃん万能過ぎです。

「これは……裕香くんのスーパーカコポタイム、という訳ですね」
「カコポ……はっ! まさか朝霧先生の過去話が聞けると言うことですか、お義父様!」

まだそのネタ引っ張りますか。おまけにまたカコポとか言い出してしまいましたし。
いや、この話は聞いていて面白い類の話ではない、それならこの二人が空気を読まず雰囲気をぶち壊しにしてくれれば……

「まず、私の事についてだが……覚えているか?」
「いんや、それが全然。どこかで会った様な気がする程度にしか感じられないのであります」
「だろうな。視た所、記憶の封印が施されているみたいだから……恐らく、私に関する全ての記憶を封印されてしまったんじゃないかと思っている」

なるほど、確かにそれなら朝霧先生が九条さんの事を覚えていないという事にも頷ける。

「ただ、おかしい事にそれ以外の封印の術式も確認出来たんだ。これは……三種の記憶封印だな、おまけにやたらと実力の高い奴が掛けたのか、術式が恐ろしく強固な上に三種の封印が複雑に混ざり合っている様にも視える」
「そんな事もわかるのか、凄いよ雪さん!」

それを聞いた瞬間、ビクリッとクウネルさんの肩が震えた。何か知っていますね、この反応は。もしかして、その記憶の封印を施したのはクウネルさんなのでは?

「それで、この記憶の封印は解けたりするの?」
「いや、私に関する記憶封印はそれを無理矢理解こうとすると、脳に作用して発狂してしまいかねない。後者はもう滅茶苦茶過ぎて手の施しようが……これに関しては自然に思い出してくれるのを待つ他方法はないな」

それは何とも歯痒いですね。ああ、クウネルさん、口笛吹いて露骨に誤魔化そうとするのはやめた方がいいですよ? それでは自分がやったと白状している様な物ですから、ね。

「そういえば、最近よく頭痛に苛まれていた事が。最初は、厨二病の初期症状なのではと疑っていたのですが、まさかこの様な事になっていたとは……何て可愛そうな朝霧先生、ポ」

厨二病の初期症状って。何でもかんでもそっちに結びつければいいとでも思ってるんですかね、思っているんでしょうね。

「記憶についてはこんな具合だな。で、本題なんだけど、裕香の質問に答えるような形でいいか?」
「うぃ、それでよろしくお願いしまする」
『いつの間にか呼び方が裕香になっとる』

ああ、本当ですね。朝霧先生も九条さんの事を『雪さん』と呼んでいますし、別に驚くような事もありませんが。

「んじゃ……俺の知っている事だと、あの研究の最終目標が『究極の生命体の誕生』らしいんだけど、実際どうっだったの?」
「それは間違いではないな。奴等は確かにそれを目指していた」
「ほー、それじゃその究極の生命体とやらは」
「完成した。そこに至るまでどれ程の犠牲が出たのかはわからんが」

その研究者達が何を思ってその様な外道を行ったのかはわかりませんが、やはり聞いていて面白い話ではない。お嬢様達も話の内容を理解したのか、顔を顰めながらじっと映像を見ている。
少し、雰囲気が変わってしまった所で、朝霧先生が首を傾げながら何かを思い出す様な素振りを見せ始めた。

「……アレ? 最近そんな感じの夢を見た様な気がする……確か、黒髪の女の子が呼び出された悪魔達相手に無双して、研究者がすげぇ自慢してたわ。」
「ああ、それは私だ。剣一本で無双余裕でした」

意外とあっさり暴露してしまってる。と言いますか、剣一本で悪魔達相手に無双? 九条さんは現在26歳だと言ってましたから、朝霧先生とは一つか二つしか違わない。その当時はまだ朝霧先生も随分と幼かったと聞いていますから、当然九条さんも幼いという事になる。年端も行かない少女にそんな事が出来てしまうとは。

「その後に、研究者の命で裕香と一緒にいる事が多くなった訳だが……」
「そりゃまた、何で?」
「私と一緒に行動させる事で劣等感を抱かせ、能力の向上を計ろうとしたらしい。とは言っても、当時の裕香には無駄だったみたいだけど」
「研究者ざまぁと言わざるを得ない」

劣等感を抱かせその感情を能力の向上に向ける、ですか。そういった方法で能力を上げた所で、何れそれが自分達にも帰ってくる可能性があると言う事を考慮しなかったんでしょうか?
と言いますか、今の朝霧先生なら簡単に嫉妬して……あ、駄目だ。その嫉妬が変な方向に行って、絶対おかしな事になる。

「それが意外とざまぁでもなくてな。当時の私は一部を除いて実験が終了していたから……お前の世話をしながら先生紛いの事をしてたんだよ」
「雪さんの個人授業だとっ!?」

身を乗り出して顔を近づける朝霧先生に驚き何度かまばたきを繰り返しながら、ゆっくりと息を吐きつつ肩に手を置いて朝霧先生の姿勢を正す。ちょっと手馴れてる感じがするのは気のせいだろうか?

「と、その事を話す前に、色々と説明しなければならないな」
「何の?」
「研究の真の目標。さっきの究極がどうたらは、表向きの目標だから」

研究の真の目標。九条さんが言うには、究極の生命体の誕生を目指していたのは確からしいのですが、それだけでは無いとの事。
最初に話されたのは実験の対象となるのが、高い才能または特殊な能力を持つ『子供』である事。幼い頃から自分達が絶対である刷り込み、自分達の思うがままにするという理由の他に、

「奴等は真性のロリコンとショタコンの集まりだったから、な」
「うぇ……それは酷い。何なのその変な集まり?」

訳のわからない集まりだ。ただ、聞けば実験以外には手を出そうとしなかった、とか。九条さん曰く『紳士と淑女なキ○ガイの集まり』だそうです。それでも外道には変わりありませんが。
次に、その紳士と淑女なキ○ガイさん達が求めていたのは、高い能力を持った存在を生み出すだけではなく。

「萌えも兼ね備えた存在」
「死ねばいいのに」

朝霧先生にしては珍しく呆れる前に毒を吐いてる。いや、もうその人達は存在していないらしいんですけどね。
が、少し待って欲しい。萌えというのはイマイチわかりませんが、その当時に今で言う『萌え』という意味を持つ言葉は存在していない。別の意味での萌えならありましたが。

「裕香も一歩間違えれば猫耳にされている所だった、というかそうするつもりが何故かそうならなかったらしい」
「男のぬこ耳とかクソ喰らえだよ」

一瞬、猫耳姿の朝霧先生を想像してしまった。隣では「朝霧先生の猫耳……ハァハァ……はっ! コホン、朝霧先生がこれ程までに辛い体験をしていたなんて、ポ」と、茶々丸さんもどうやら同じ事を想像してしまったみたいですが、ポとかもういいですから。
そんな茶々丸さんの様子を見て、態度を軟化させ肩の力を抜いているお嬢様とアキラさんを見ると文句も言えませんけど。

次に九条さんが話したのは究極の生命体を誕生させる為に行った手段。一つは集めた子供に魔法生物を融合させる事。これは朝霧先生が受けた実験だ。どの様な方法でそれを行ったのかは詳しく語られなかったが『魂レベルでの融合』、それがどれ程の苦しみを与えるのか、想像するのが恐ろしい。
中には拒絶反応を起こし絶命してしまった子や、その実験に耐え切れず理性を無くしてしまった子も居るらしい。
なら、何故朝霧先生が今こうして存在していられるのかと言うと、

「お前は生まれつき魔法の才に優れていた様で、上手く修行すれば全ての属性を極める事も不可能ではなかったらしいんだが―――」

魔法生物を融合する度に才能が劣化していった、つまりはその才能が犠牲になったおかげで実験に耐える事が出来たのだとか。実験を繰り返す毎に一つの属性の精霊に干渉する事が出来なくなり、やがて全ての属性の才能を無くし、代わりに魔法生物に変身する力を得るに至った、と。

「ふざけろマジで。俺のちょうすごいさいのうかえせ……ちくしょおおおおおおお!! ちくしょおおおお!!」

朝霧先生魂の咆哮(cv若本)である。詠唱魔法に対して執拗に拘っていたのだから、その悔しがる姿も半端ではない。以前、何故そこまで詠唱魔法に括るのかと聞いた事があったのですが、帰ってきた答えは「え? それは何かかっこいいからに決まってんじゃん」という何とも言い難い理由でしたけど。

ただ、それで完成した私達が最終形態と呼んでいる姿は彼等の望んだ姿では無く、以後も実験は繰り返され、様々な種類の魔法生物と融合させられていたという話なんですが、それでは先に聞いた実験に耐えられた理由に矛盾が発生してしまう。その事を我に返った朝霧先生が聞いた所、

「実験を繰り返した結果、それに耐えうる器が出来上がってしまった、と資料には記載されていた」
「喜んでいいのやら悲しんでいいのやら」
『裕香くん、死ななきゃ安い、ですよ』
『それもそうだわな』

この切り替えの早さはどこで身に付けたのだろうかと、疑問に思う程の軽いやり取り。

「もっとこう、フリーザ様とかクウラ様みたいに格好のいい姿に出来なかったのかと」
「それは他に居たからな」
「居たのっ!?」

これは本当に驚きだ、彼等の頭の中を覗いてみたいくらいに驚いてしまう。それと同時に、萌えという言葉が出た時と同じ様に、何故そんなピンポイントな姿の存在を創り出す事が出来たのかと、新たな疑問も浮かんでくる。少し気になったので、また朝霧先生に聞いてみる様促すと。

「ん? それはまあ、普通に未来人が混ざってたから」
「わざわざ未来から碌でもない事しにご苦労様ですねっ!」

あっさりと疑問が解消されてしまった。時間逆行などという超高等技術までを使って、本当にご苦労な事だ。それを証明する物は残念ながら、今はもう存在していないとの事ですが。
当時、未来から持ち込まれたのであろう物が研究所にはあったらしく、萌えだの何だのと言い出したのもその辺りが関係してるとか。

「才能の無駄遣い過ぎるわ。そんな事してる暇あるんなら、昔の自分に会って断罪SEKKYOUでもしてろと。俺なら絶対そうするね、そして過去霧が「お前が言うな」と返してくれるのを期待する」
「いや、過去の自分と融合してしまったって言ってたから無理だったみたい」

自分から暴露してたんですね、その未来人さん。
一つ目の手段を話し終えた所でもう一つの、九条さんが関わっていたと思われる研究の話に移る。
『潜在能力が高く才能に溢れ、他の存在を受け入れる器を持つ者を一から創り出す』という、これもまた正気を疑ってしまいそうな内容。長い時間と数多の失敗を重ね、ようやく誕生したのが九条さんらしい。曰く、内容があっさりしているのは、そこに至った結果しか資料に記載されておらず、どの様な手段を用いて成功させたのか記されてなかった為。

生まれてから数年間は実験には関わらずに育ち、物心が付いた頃から潜在能力を引き出し、才能を開花させる為の修練が始まったと語っている。

「セルみたいな感じ?」
「吸収するぞ」
「腕だけならいいよ、ピッコロさん的な意味で」

いや、吸収とかそういう能力は無いらしいんですけどね。

「唯一の成功体だったからなのか、ある程度の権限と自由があったから、お前達に比べれば随分と甘やかされていたよ」

なるほど、権限が与えられていたから、研究の内容も詳しく知っていると言う訳ですか。
その後、実験に耐えられる様になり何かを融合させられ、一部を除き実験が終了した後に、朝霧先生のお世話役件先生役になったという話に戻る。

「お世話役と言う事は……雪さんは俺、というかタマの初代お主人ちゃん?」
「んー、実際、一緒に生活していたし、面倒も見ていたからそれは間違いじゃない。白猫の状態にタマと名付けたのも私だから」

名付け親だったんですか。九条さんが初代ご主人、そうなると。

『ウチ、二代目やったんやねぇ』
『そして三代目は私の予定です』

いつから茶々丸さんが候補に。ちなみに、その頃から家事などの事もある程度出来るようやらされていたらしく、「家庭的ってのは萌え要素の一つなんだっ! あ、でもたまにドジをするとポイントアップ!」と言われ強引に色々と学ばされたとか。ますます意味の分からない集団だ。

「私はあまり愛想が良くなかったから、最初は苦労したんだけど。試しにニコッと微笑んでみたら、若干懐く様になって、後ろを付いて歩く様になってた」
「その頃からポされていたとは、雪さん恐るべし」

ポの事は置いておいて、実験を繰り返す毎日で碌に誰かと話す機会が無かったから、一緒に生活する事が良い刺激になったのかもしれませんね。
当時の生活について話が終わり、いよいよ朝霧先生が最も知りたかったと思われる事に触れる。
その身体に埋め込まれている、賢者の石の贋作、これが本当にそうなのか別の何かなのか、どういった方法で創り出されたのか。

「賢者の石を目指して創られた贋作……これは間違ってはいない。ただ、その賢者の石とやらの知識をどこから持って来たのかは知らないけど」
「どうせ、未来から持ってきた漫画とかアニメとか、そういうのに影響されて適当にやったんじゃないの?」
「そうかもな。それで、それを創り出した方法なんだが……」

高位の存在を召喚してその心臓を抉り、それを核として儀式を行う、というのが生成方法との事。高位の存在、実際に召喚する事なんて出来るんでしょうか? いや、例え召喚に成功したところで、それを完全に御する事が出来なければ……

「結果的に召喚は成功した、お前のそれに使われた物は『魔王』の心臓だ」
「ぬぅぅぅおぉおお……背中が、背中がむず痒いっ! 魔王とか……どんだけだよ……」
「まあ、『魔王』なんて呼び出してただで済む筈がない。その時は運良く、『魔王になったばかりの新米魔王』が召喚された」

魔王、ですか。俄かには信じ難いが、実験を見たのであろう九条さんが言うのならば、信憑性が高い話でもある。

「新米魔王……はっ! なのはさんですね、わかりm(ry」
「残念ながら呼び出されたのは、死に掛けでツンデレでヤンデレでショタコンでドMのツインドリル(♀)だ」
「萌え要素が多ければいいってもんじゃねーよ」

どうして死に掛けていたのかは不明だったそうですが、その状態ならすぐに還ってしまうのでは? と疑問に思う。
治療も受け付けず、ただただ消滅を待つだけだった……のですが。その魔王が幼い頃の裕香さんに目を付けてしまい、

『どうせ還るんだったら、せめて好みのショタからドぎつい一撃を貰って逝きたい』

と、言ったそうです。そのショタに対する熱意に胸を打たれた研究者達は、彼女の意を汲み幼い朝霧先生に彼女の心臓を抉る様命じ、その指示に従った朝霧先生は心臓を抉りとってしまった、と。淡い光に包まれて消えていく彼女は恍惚の表情を浮かべ満足気な様子で還ってしまったとの事です。

「で、その抉り取った心臓を核に儀式を行い完成したのが、裕香に埋め込まれているソレだ」
「なんだかなぁー、その新米魔王さんって絶対ムドーポジだよ。もっとこう“ユダの痛み”みたいなのをさー」
「そんな物が現実にあったら色々な意味でやばい」
「ですよねー」

それで完成したソレを埋め込んだ結果、気と魔力の融合が出来ない体質になってしまった、と言いますか爆発しますからね。得る事の出来た恩恵が、気と魔力の効率的運用の劣化と再生能力、それと

「不老、だな。奴等の計算では幼い姿のまま成長しない身体になるはずだったんだけど、詳しく調べてみたところ、
ある程度の肉体年齢までは成長する事がわかり、絶望したそうだ」
「勝手に絶望しやがれこの野郎」

不老とは言っても不死の能力があるのかどうかは不明で、普通の人間より長生きする可能性もあれば、逆に寿命が縮まって早死にする可能性もあるのだという。
魔法生物との融合でも彼等の望む姿になる事はなく、不老を願って創り埋め込んだソレも彼等の望む効果は得られない。前者の時点で既に失敗作呼ばわりされていたのが、後者の実験の結果の所為で余計に扱いが悪くなったとの事。朝霧先生にとっては本当にいい迷惑でしかない。

「あるぇー? でも雪さんも俺と同じ位には成長してるよね? つかおっぱい大きいし」
「私の方は調べてもわからなかったらしい。身体は研究所を出てから成長したんだよ。胸は何故か知らないけどいつの間にかこうなってた」

首を傾げながら両手でその羨ま、大きい胸を持ち上げ強調する様な形になっている姿を目にして、思わず視線をはずす、なんて事はなく、思いっきり凝視している朝霧先生に呆れてしまう。

そんなやり取りに誤魔化されそうになるが、どの様な儀式を行って創り出したのかは語っていない。最初は詳しく話していた筈なのに、どうしてそこだけ言葉を濁したのか。私の気のせいかもしれませんが、映像越しに何度か目が合った様な気もする。もしかして私達が見ている事に気付いているんでしょうか?

「雪さんはどんなの埋め込まれたの?」
「それは、まだ秘密だ」
「そう言われるとますます気になるけど、いつか教えてくれると信じてっ! もう一つ聞きたい事が」
「何だ?」
「白ぬこと最終形態以外に変身出来たりするのでしょうか!」

まるで子供の様に瞳を輝かせながらの質問。まだ諦めてなかったんですね朝霧先生。

「最終形態というと……あの姿の事か? でも、あの姿がある意味完成系だから……」
「ぶっちゃけ戦闘能力とか二の次で、変身回数だけでも増やしたい」
「そう言われても……」

今、九条さんが言った通り、最終形態が最も強く毛並みが美しく、ほどよく素晴らしいもふもふを兼ね備えている姿だ。曰く、融合させられた魔法生物(身体の一部などを含め)が多過ぎて、無理にそれ以上の変身をしようとするとそれぞれが暴走してしまい、

「最悪、ネオエクスデスみたいになる可能性が……」
「それはちょっと嫌だわ。知り合いに「元に戻って!」と言われながらフルボッコされるのが浮かんできて困る」

それはありそうですね。

「いや、待てよ。確か裕香の変身は全てタマが基点になっている筈だから、融合された魔法生物を感じる事が出来ればもしかしたら変身出来るかもしれない」
「ktkr!」

朝霧先生の記憶にはなくても、実験を受けたその身体は覚えている筈だから、やり様によっては別の姿に変身する事も不可能ではないらしい。とは言っても、融合させられた魔法生物を感じるというのは難易度が高そうですが。それでも変身出来る可能性が出て来たという事で、凄くはしゃいでいる。

「よーし、おいちゃんキングレオみたいな姿に変身するぞー」
「猫科限定なのか……それならまず最終形態とやらの脚で二足歩行出来る様にならないと」

え、それはつまりタマの身体のまま脚だけ最終形態に変身するという事ですか? な、何てバランスの悪い。ま、まあ他の姿へ変身する第一歩という事なので別にいいんですけど。どんな姿に変身しても、もふもふだけは無くさない様にして欲しい。

ふと、言葉数の少なくなっているお嬢様達に視線を向ける。話の内容が重めなのに本人達の態度がアレ過ぎて、どう反応したらいいのかわからないといった表情だ。私も一度そういう状態になってしまった事があるので、気持ちは痛いほどわかります、色々な意味で。
そんなお嬢様達にクウネルさんがこそこそと耳打ちをし始める。そんな事をしなくても念話なり何なりで話せばいいのでは、と思っていたら。

『ゆ、裕香にこんな過去が……ポ』
『あ、朝霧先生にこんな過去があったなんて……ポ』
『朝霧先生にこれ程までに凄惨な過去があったなんて……ポ』

これですよ。まさかお嬢様達を煽ってこの様な事をさせるとは、あと茶々丸さんそれ三回目です。
呆れた様な視線を浴びせていたら、今度は四人から微妙な視線が送られてくる。え-と、何ですかこの空気読めみたいな雰囲気は? 私もやらなくてはいけないのでしょうか? ああ、やらなくてはいけないんですね。

『あ、あさぎりせんせいに、こ、このようなかこがあったとは……ポ』
「裕香にはこんな悲しい過去があったのか……ポ」

何故か私の念話に反応して、九条さんも似た様な事を言い出してしまった。念話が聞かれている? これは本当に気付いているのかもしれません。って、今の話、九条さんがしたのにそれは―――

「雪さんにこんな、こんな悲しい過去があったなんてぇ! 俺、俺……ポ」
『いや、もういいですから』

やってしまった私が言うのもなんですが、いい加減しつこいです。
どさくさに紛れて九条さんに抱き付きながら何かを思い出したのか、離れて左手の手の平の上に、右手をぽんと乗せ。

「ねえねえ、何か俺にも使えそうな必殺技とかない?」
「必殺技?」

今度はそれですか。右腕を立て左腕に胸を乗せながら疑問符を浮かべている九条さんの顔をじっと見つめ、朝霧先生は何か期待に満ちた表情を浮かべている。
確かに、朝霧先生よりも身体の事に詳しい九条さんなら、使えそうな技の一つや二つ思いつくかもしれませんが。取り合えず、今何が使えるのかわからないと判断のしようがないと言う事で、使える技を挙げていく。魔法の射手に断罪の剣……アレ? 少ないというか技じゃない。後はもうチャオズくらいしか無いんじゃないだろうか?

「出来る事が限られてるからどうにもこうにも。これはもう、禁断の“奈良づくし”の封印を解くしか……」
「それ逮捕されるから絶対に使うなよ」

意外な事に、チャオズは挙げず“奈良づくし”とかいう一度も聞いた事のない物を挙げる。って、使うと逮捕される技ってなんですか。

「魔法の射手、か。多分、それは魔法の射手じゃない。魔力を似たように形成して撃ち出しているだけだと思う」
「ちょ」

驚きの事実、実は魔法の射手じゃなかった。まあ、属性付加もされてませんでしたからね、何となく怪しいなぁとは思っていたんですけど。口から出したりしていたので。
聞けば、一通りの実験が終わった朝霧先生は詠唱無詠唱関係なく、属性を付加して使う様な魔法(ほぼ全て)は使えなくなっていたらしく、代わりに魔力を気の様に使う事が出来るようになっていたとのこと。現在使用している魔法の射手は、一般的な魔法の射手のイメージが強く出て似た様な物を撃ち出しているだけにすぎないらしく、九条さんに言わせれば、使えない魔法を無理矢理使おうとして余計に魔力が消費されているらしく、無駄だらけで無駄遣いもいいところだとか。

「何で誰も突っ込んでくれなかった!」
「属性付加されないとしても見分けが付き難いのだから仕方ない」

正直、言われるまで確信が持てませんでしたから。ちなみに、断罪の剣に関しては不明。もしかしたら核に使われた新米魔王の心臓が関係しているのかもしれない、とかなんとか。
自分にとって衝撃の新事実を知りあからさまに落ち込む朝霧先生を見て、何を思ったのかその場で立ち上がり、

「私に関する記憶が封印されているのだから、教えた事も忘れてしまうのは当然と言えば当然だな」

今度はそう言って朝霧先生に立つよう促す。どうやら改善策があるみたいだ。

「いいか、お前の魔力はある意味自由だ、それを踏まえて指先に魔力を集中させてみろ」

後ろから抱き付くように朝霧先生の腕を両手で包む。

「先生、おっぱいが背中に当たって集中出来ません」
「……人も変われば変わるものだなぁ。いいから、言われた通りにする」

そんな事を言いつつも、扱いには何故か慣れている様子。注意され素直に応じ、眼を閉じて集中。
一体何が始まるのかと思えば、最初は小さかった魔力球がどんどんどんどん大きくなっていく。集束速度も徐々に上がり、直径数メートルはあるのではないかと思う程の魔力の塊が完成した。

「ほら、眼を開けてみろ」
「……うおっでかっ!? 何かフリーザ様とかクウラ様みたいだ!」

いや、その反応はどうなんでしょうね。

「久しぶりだから見た目程威力はないと思う。でも、それを昇華させるか腐らせるかは裕香次第だ」
「おお、何か俺よりも先生っぽい」

まったくです。見た目程威力はないとの事ですが、朝霧先生が言うには今まで使っていた魔法の射手(笑)10発分の威力、つまり最大威力の半分くらいはあるとか。
変身の事といいコレの事といい、やる事が増えて嬉しそうではありますが、その分仕事をサボリそうで若干怖い。

『そういえば、エヴァとかどうなってんのかな?』
『キティの封印が一時的に解かれてから少し経った後に、離れたところで結界が張られたのを感知しましたから、今頃狂喜乱舞しているのでは?』

これだけ離れているのに結界が張られた事に気付くクウネルさんも無駄に凄……アレ?

『朝霧先生』
『なぁにせったん?』
『指から離れて行ってませんか、それ』

信じていないのか『またまたー』と笑いながら頭上に構えていた腕を見上げて―――吹き出した。ゆっくりとではありますが、青白く光る魔力の塊は朝霧先生の指から離れて高度を上げていく。

「……裕香、お前今誰かの事を思い浮かべてたりしたか?」
「よくわかったね」
「昔、今と似た様な状況に遭遇した事があってな。ちなみにその時は私の事を考えていたんだそうだけど」

そこで一旦言葉を切り、頭上にある魔力の塊を指差して、

「多分アレ、今思い浮かべた人物の元に飛んでくぞ」

とんでもない事を言ってしまった。魔力の塊を眼で追ってみると、確かにそれらしき方向に向かっている。修行したての頃はよくやっていたなー、と人事の様にうんうん呟き昔を思い出している彼女の横で、『せったん制御出来にぃ!』とパニックに陥っている朝霧先生。
先程、エヴァンジェリンさんについて念話を交わしていたのだから、当然魔力の塊はエヴァンジェリンさんの所に飛んでいく事になる。

『あ』

誰かが呟いた瞬間、魔力の塊が一気に加速してあっという間に見えなくなってしまった。口を開けて呆けている朝霧先生、数秒後慌てながら、

『エヴァ! そっちにニートボールが飛んでったから「こんなものぉ……こんなものぉ……こん(ry」って感じで受け止めてくれ!』
『うるさい、今忙しいんだ』

念話を交わしても相手にされない。それよりもニートボールって。




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